宗教者が、青年に、どうか安心して特攻に行ってきて下さい、といっていた時代
特攻隊の青年がお寺の住職に聞いた。
12日に鹿屋行ったんですけのう。8日の日に。富高の飛行場のこっち山手の方にね、お寺さんがあるんです。それで、一つどうせ死ぬるんじゃけ、死んだらどうなるんか聞いてみちゃれ思うてね。それで飛行場横切って行った。近いんで。飛行場横切ってお寺さんへ。灯籠がようけ、ずっと両脇並んだ古いお寺じゃったですがね。そこへ行って寺の方へ行ったら、誰もおらんのですよ。じゃけ、さい銭だけ出して拝んで。それから今度は住宅の方へ行ったら、ちょうどお坊さんがあの縁側で盆栽をいじりよったんです。それで、そこのお坊さんに、「すいません。わしあの、そこの前の飛行場の、特攻隊員ですが。ちょっと、2、3話を聞かしてもらいませんか」言うたら、「ああ、いいですよ。わしの知ってることなら。何ぼでも、ええですけ」言うて。「いや、仏さんの事しか、話しませんけ」言うたら。「ああ、どうぞ。」話ししてくれて。
「あの実際、爆弾で破裂して体バラバラになるさね。それでバラバラになって、肉ば魚がとって食うじゃろうが、骨はどうで海の底で、時間がたったらあの土になるんじゃろう思いますが。まあ、わしら、そういうみじめな死に方するんですが。どうなるんですかのういう、死んでからどうなるんですかのう」いうて言うたら、いや、それは「人間は他の動物とちごうてね。あの、魂もんがある」言うて。人間には。
それで、「我々僧籍のもんが、その魂を、永久に、弔いしますから。安心して行ってください」いうて。そのお寺さんが言うたの。言うたです。「安心して行ってください」言うて。
それからもう、次に、もう一つ「我々、特攻で人を殺すかも分からんし。今までの空戦でも何人かあの殺しておる。それで我々は人殺しをしてね。それであの世行くわけです。ほれであそこには地獄と極楽があるらしいですが。わしは人殺しをしとっても。極楽いけるんですか」言うて聞いたんです。そしたら、「あなた国のために行かれるんですけ、絶対あの極楽、地獄行くうような事は絶対ありません」言うていて。「ああ。それはいいですのう、思うて安心。それから、
靖国や護国神社と一体化した仏教
「もう、ひとつ聞かしてください。わしは死んだら、護国神社に、靖国神社行くことになっとるってね。軍人ですけん。それで、靖国神社は神さんですよね。それで、里の方へ帰りゃあ仏さんですよ。それで、仏さんになって、神さんなったり、そがに、あんた簡単になれるんですか」いっていうたら。
「いやあ、昔は、神さんも仏もな。一つじゃったんですね。それで、安心してください。その後、色んな、偉い人が出てきて。何宗じゃ、かに宗じゃ言うのを作ったが。昔は一つじゃったんじゃから、そう心配することは要りません」言うて。お寺さんが教えてくれたんです。うん。
お寺さん行った時、飛行服のポケットへ蜜豆の缶詰一つ入れとったんじゃけえね。それで、それもって、「こりゃあ今日の礼です」言うて。缶詰のこんなの一つあげたら、よろこんどったですよ。「こりゃなんですか」言うけん。「蜜豆です」言うたら。「蜜豆言うてあんた、缶詰があるんですか」言うから。はは、それだけ。